いらっしゃいませ

にほんご べんきょう してきて ください
いらっしゃいませ。ずっと試運転中です。予告なく変更しまくるつもりが仕様変更については手付かずです。

2018年5月24日木曜日

猫のいる部屋 4


ラボの見知らぬ学生はぶっきらぼうな人で、何度か話しかけてみたけど自分の実験以外のことは興味なさそうに短い返事をするだけで会話が繋がらない。
「ネルソン教授は最近来てないですね。出張ですか?」
「さあね、…ネルソンのことは知らないな」
「あなたとは初めてお会いしましたよね?私は須磨と言います。」
「ああ、初めて見るね…知り合いじゃないことは確かだ。」
むわー、同室の人がコレでは辛すぎる。一緒に仕事してたサイモンやミチコはどこへ行ってしまったんだ?
打ちひしがれて夫のラボを覗く。以前、挨拶を交わしたドナルドの顔でも見てみるか。しかし夫が帰って来ない話とか、イマイチ英語でうまく説明できる気がしない。せめて夫の留学生仲間のペータがいてくれれば…オージーの彼は陽気な若者で言葉の壁をものともせずにコミュニケーションを図ってくれる人だった。通じるかどうかは別問題なのだが。
実験室の様子はどこも一緒
ペータはいなかった。フランス人留学生のべべもオランダ人留学生のヒノエもいない。唯一私の英語を根気よく聞き取ってくれる親切な日系4世のポーラも…やはりいない。
こうして考えてみるとアメリカでつるんだ友人のほとんどは留学生や移民の人たちだ。アメリカ人はいわばホームグラウンドに居るだけあって、どうしても仲間同士のおつきあいが忙しくなる。となると、結局付き合いやすいのは留学生同士になる。日系人のポーラだけはアメリカ人だけど、彼女は祖父母世代が生粋の日本人だったりするので日本人が間違いやすい英語表現を上手にフォローして聞き取ってくれるからとても話がしやすい。
彼女に話を聞いて欲しかったな…と諦めて帰りかけるとそこへドナルドがやってきた。
「何か質問があるかな?」
待ってましたよとばかりに向こうから切り出してきた。
Hi,ドナルド…タケシはここに…いないかしらね?」
「まだ見てないな〜。もしかして先に来ちゃったの?」
「?!う、うん。先に来ちゃった…みたい。」
「じゃあ、そのうち来るよ。待ってれば来る。時間はないようなものだからね。いつか解決するさ。家で待ってれば?」
「わかった。そうする。」
実際には他にも早口で色々と言われたけど、さすがに全部は聞き取れない。家で待てとの言葉を渡りに船とばかりそそくさ退散。
帰りは以前、ウエダ夫人に出くわしたスーパーにも寄ってみた。だけど今日は彼女には会えなかった。
本当に待っていればそのうち帰って来るのかな?ここでの生活は確かに楽しかったけど、夫がいないと楽しみも半減。暖炉に火を入れる季節までには帰ってきてくれるかな。暖炉は夫の仕事なのに、一緒に薪がはぜる音を聞くのが楽しみだったのに…。暖炉の横に腰掛けてぼんやりしてるとオトヒメが額をコツンと私の腕に押し付けて来た。
「待っていれば来るってさ」と頭を撫でてやるとオトヒメは「そうだとも!」とばかりに満足そうに伸びをした。

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