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2018年6月8日金曜日

猫のいる部屋 9

日本に帰国が決まった時、犬は関税に預け入れ期間があるが猫はそのまま簡易に連れ帰ることができると聞いて心が揺れた。だけど果たしてボブ=オトヒメはそれを望むだろうか?危険がいっぱいで閉じ込めざるを得ない見知らぬ異国の地へ私たちと一緒に来てもオトヒメが幸せになれるとは絶対に思えなかった。


結局、私たちはオトヒメをアパートに残して帰国した。アパートにはオトヒメの世話をしてくれる学生がたくさんいたけど、それでも私はオトヒメが帰らぬ同居人を心配してしばらくは寂しそうに部屋の外で待つだろうその姿を思って自分を責め続けた。オトヒメの幸せを願ったからこそのお別れだったけれど猫に人間の事情なんてわかるわけもなく、なんという酷いことをしてしまったんだろう。私はその時に、もう自分には猫を飼う資格などないのだと堅く心に決めていた。最後まで世話をする覚悟無しでどんな生き物にももう絶対に私は触れてはならない。そう決意するほどに悔恨と贖罪の念に苛まれた。それから10年も経ってから迷い猫を保護して結局再び猫と暮らせる幸せを手にいれたけれど、オトヒメとのことは決して忘れてはいけない苦い思い出になった。
その思いがあるからオトヒメのいるここへ私は来たのだろうか?
しかしそれは腑に落ちない。その後日本で一緒に暮らした猫との思い出だって同様に自分の中では大きな位置を占めている。猫に限らず日本で暮らした長い歳月よりも若い日の一瞬の煌きだったここでの生活が優っていたとは必ずしも言い切れない。私が自分でここを選んだとはとても思えないのだ。

でも知る人もいない異国のこの土地で、一体誰が私を引き寄せるだろうか?
この猫以外に!
「オトヒメ、本当にあなたが私をここに呼んでくれたの?私はあなたを置き去りにしたのに?」
真顔になってオトヒメの顔を覗き込むと「そうだとも!」と彼は嬉しそうに腹を見せて甘えた。
この世界では思いの強さが会いたい者を引き寄せるという。
オトヒメとお気に入りの場所
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おしまい

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