「ミセスウエダ…。アップルヒルの農園は今もお持ちですか?私、あの頃行ったあの風景が忘れられません。また行ってみたいのですが、ご一緒しませんか?私、車を出しますから案内していただけませんか?」
「あら、素敵ね。1人になってからはもう長いこと行ってないからどうなってるかしらねぇ。リンゴの世話は人に任せっきりだったのよ。ピクニックにはまだ暑い季節だけど、あの丘の上の木陰は風がわたって気持ちいいわ。私、あの丘の風景が大好きなのよ。じゃ、お弁当を持って行きましょう。いつならご都合がいいかしら?楽しみだわ。」
基本的に遠出しないと丘などない土地だった |
「ああ、君か!やっと来た。」プロフェッサーは夫人の体をしっかりと抱きとめると口づけをして彼女の顔を何度も覗きこんだ。「やっと来た。ずっと待っていたよ。」
夫人は恥ずかしそうにこちらを見て「ほらね、待っていればいつかは会えるのよ。」と言った。
夫妻の農園の小さな家に招かれて一緒にお弁当を食べた。
「僕はね、絶対に君はここへ真っ先に来るものだと思ってたんだよ。」
「私は絶対にデイビスの家だと思ってましたよ。農園の仕事は大変だとあなた、文句ばかり言ってらしたじゃないの。」
「でもここは海こそ見えないけど瀬戸内の丘みたいだと、君が言ったんだよ。だから決めた場所じゃないか。君が一番好きな場所はここなんだと僕は思ってたんだよ。」
「何にしてもお二人がこうしてまた一緒に会えて良かったですよ。結局、居たいと願った場所がその人の居場所になるんでしょうかね?待てば会えると皆さんはおっしゃるのですが、今日のような偶然の再会を待つしかないんでしょうか?何かご存知ですか?」
「随分前に思いの強さが引き寄せると教えてくれた人がいるけれど…どうなのかしら、会いたいと強く願ってる人の方へ引き寄せられることがあるんですって。だから私はずっと強く願っていたんですけどね。」
「じゃあ僕の引き寄せる力が君よりも強かったということだね。」プロフェッサーは満足そうに夫人の手を握った。見つめ合う2人。
こうしてアップルヒルからは1人で帰路に着いた。幸せな気持ちと共に。
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