用事のついでにふらふらと街歩き。久しぶりに目的もなく気が向く方へと歩いてみた。半ドンなんてものがあった時代には学校帰りにそうして遊んだものですが、さて今回の場所は乃木坂界隈。
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意外とこじんまり |
司馬遼太郎なんぞを読むと、乃木希典という人物はどうにもパッとしない描かれ方。明治天皇に殉じて切腹自殺というセンセーショナルな出来事のせいで大正、昭和の戦時に「かくあるべし」的な国民の崇拝を受けただけ、てな感想を持ってしまいがち(←いや、ソレはかなり偏ってるな)。だけど今回、乃木希典邸宅跡を見たことでちょいとググってみたりなんかもして、人間的に不思議な魅力を持った人だったのかな〜と感慨ひとしお。
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馬小屋横に猫小屋が! |
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レンガ造の厩は立派 |
吉田松陰と縁戚関係にあり、あの時代あの土地で培われた気風や、軍人としての経験が彼に及ぼしたであろう影響、巡り合わせの妙を感じて興味は尽きない。西南戦争後は放蕩暮らしに浸ったという彼がドイツ留学の後には狂おしいまでに高徳な生き方を目指すようになったという。その人生の転換ポイントは何だったのだろう。彼を巡るエピソードには「人からこんなに好かれた」系のものが多いが、私のお気に入りエピソードは迪宮(みちのみや)時代の昭和天皇に「自分の足で歩いて学校へ行け!」てな指導をしたという説話。人の上に立つ者の高潔さを追求した一端がうかがえる。
さて、その謎めいたドイツ留学の折にスケッチしたフランス陸軍連隊本部を模して作られたというのが今回訪れた乃木希典邸宅跡。綺麗にそのまま残っていたのですね。夫妻が自死したという部屋も冬の陽光に照らされて静謐なたたずまいを見せていました。区が管理しているのでしょうか、小さな庭園を世話する人の姿がありました。
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主人なき やかた世話する人ありて 夕日(せきじつ)の射す 部屋は温もれり |
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路地は不思議時空の入り口 |
隣接する乃木神社には骨董市がたち、金髪碧眼のお客様達が興味深そうに古物を眺めています。君は知らじな、今は昔、ここにハラキリをした人のその家がひっそりと建っていることを。
乃木神社を後にして裏路地をひょいと越えていくとすぐそこは東京ミッドタウン。華やかな商業地区に憩う平和に酔いしれた人々のすみか。時代も人も移うものだけれど、時に昔日に想いを馳せながら今を生きて未来を迎える。次にこの街を訪れる年にはどんな変化が訪れているだろうか。ふらふら歩きにはそんな妄想のお時間がたっぷりとある。たまにはスマホから目を離して、時の記憶、土地の記憶をたどってみるのもオツなもんでオススメでござんす。